(地球を完全に侵略するつもりだ!)
月からぼくらを覗き見るだけじゃなく、パチンコ屋で仲間を増やし、どんどん増やし、ぼくらの中身を入れ替えて、地球を、自分たちのものにするつもりだ。
それとも、あの口ぶり。既にこの星は、ほとんどヤツらのものになってしまったのだろうか。
残されているのは、もうぼくだけかもしれない。
ぼくは少しふるえて、確かに青ざめて、二人の宇宙人から目を逸らした。
もう、手遅れなのだろうか。
「わかったら、さっさと消えろよ」
口の中がカラカラだ。めまいがする。
ぼくは、逃げだすようにその場を後にした。
(どうしよう、どうしよう)
いつのまにか走りだしていた。嵐の夜のように激しい鼓動が、頭の中をトロリとした熱い血でいっぱいにする。
ぼくは、なにかに追われているような気がして、闇雲に家路を急いだ。後ろを振り返っちゃいけない。 振り返っては、いけない。
昼間の月が、白く空にかかる。月齢十五。満月。
ぼくはびっしりと汗をかき、家に辿り着いた。母親は買い物にでも行っているのか、誰もいなかった。もしも。
(母さんまで、中身を入れ替えられていたとしたら、安全な場所はどこにもないのかもしれない)
最初から、安全な場所なんて、どこにもなかったのかもしれない。
ぼくは、薄まっていく血液を感じながら、階段を昇った。一歩一歩が、ひどく重い。
二階にあがり、部屋のドアを押し開き、灰色の部屋に辿り着く。ベッドに鞄を投げだして、制服の上着を脱ごうとして、ぼくはふと、ベランダに白っぽい影を見た。
洗濯物かと、一瞬思った。雨は降っていないから、出しっぱなしの洗濯物がゆれているのだろうと、なんとなしに目をやって、
胸の奥の小人が、炎にまかれたような激しいダンスを踊りだす。
頭の芯が妙に冷えて、その冷気が、薄いベールみたいにつま先に下りていった。
窓の外はまだ明るい。夕暮れまではもう少しある、粉っぽい大気に浮かび上がったソレは、ナマヌルイ牛乳みたいな色をしていた。
形は、かろうじて人型。作りかけの粘土人形みたいだった。楕円形の、プラスチックのような青い眼(?)が二つ、少し離れた位置に並んでいる。
ぼくはいつの間にか、奇妙に落ち着いた気分でソイツを観察していた。
ソイツが、窓ガラスに手(?)を添えて言った。
〈コノホシニハモウナレタカイ?〉
空気ではなくて、直接触れた窓ガラスを振るわせて伝えられた言葉に、ぼくは眉をひそめた。
うまく聞き取れなかったのか。ソイツが言葉を間違えたのか。だけどそもそも、どうしてぼくはそれを聞くことができるのだろう。あれはガラスの振動だ。テレパシー? だけど、振動する音そのものがぼくに意味を伝えた。
ぼくは石像のように凍りついたまま、口を閉ざしていた。そしてソイツが、再びガラスを小刻みに振るわせるのを聞いた。
〈セッカクナレテキタトコナノニボクハモウコウタイダヨ キミハマダイルノダロウ? ムコウノダレカニツタエルコトガアルナラツタエテアゲルヨ〉
こめかみがズキズキと痛んだ。イガイガのたくさんついた金属の塊を押しつけられているみたいだ。
あんまり頭が痛くて、ぼくはちょっと足元をふらつかせ、よろりと手をついた。
ソイツが反対側から触れる窓ガラスに。
まるで、ぼくの邪魔をしないように、ぼくもまたその窓ガラスを振るわせるのを期待するかのように、ソイツが手に似た突起部をガラスから離した。そんなこと、ぼくにできるわけがないのに。わけもないのに。
ぼくは、
ぼくは頭が痛い。
痛みのためか恐怖のためか、ぼくは小刻みに振るえて、ぼくの指先は、
語り始めた。
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