ひよこマーク  
 

その3
 
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『マズイっていうか、今回、ちょっと特殊なお仕事をお願いしよう と思ってるんだよね。だから、できれば皆に説明を聞いてほしいんだけど。留守なの?』
「いや、いるよ」
 と言って、青はスクリーンから顔を逸らし、どこを見るでもなくアンバーに声をかけた。
「アンバー、あいつら呼んできて」
『はい、すぐに』
 そしてアンバーに呼ばれた二人がブリッジにやってくる間、青は再び瑠璃に向き直った。
「それで、さっき特殊な仕事って言ったよな? どう特殊なんだ?」
『んー、それも全員集まってから説明するよ。あ、大丈夫、危ない仕事ってわけじゃないから』
 以前に引き受けさせてしまったようなハイファミリー絡みの仕事でもないよ、と瑠璃が青の不安を取り除く努力をしていた最中、スライドドアが開いて、瑪瑙、翡翠が続けてブリッジに姿を現わした。
 その音に気づいた青が振り返るのを見て、瑠璃もそれと気づいたようだ。
『あ、来たの?』
「来た」
 と青が応えた数瞬後に、カメラの可視領域内に瑪瑙と翡翠が現れたのを、瑠璃も捉えた。  
 青は、二人が自分の背後に立ったのを確認して、それで? と瑠璃に尋ねた。
「それで、今回の仕事って?」
『うん、それなんだけど……翡翠、えみちはいるの?』
 唐突な言葉にも、翡翠はまるで動じることなく、当たり前のように、膨らんだポケットからえみちを取り出して手に乗せた。
「うん、いるよぉ」
 手の上のえみちを差し出すようにスクリーンに近づけると、瑠璃の顔がパッと輝いた。
『あ、きゃあっ、えみちぃ! やほー』
「にゅ~」
「なにやってんだよ! お前も手ェ振り返してんじゃねェっ」
 青はスクリーン越しにえみちに手を振る瑠璃を怒鳴りつけ、翡翠の手の上から嬉しそうに小さい手を振り返しているえみちにも、同じように強い口調で言った。
「にゅう?」
 と、えみちが不思議そうに首を傾げ、正○丸のようなつぶらな瞳で青を見上げる。
 途端に青は、それ以上怒ることもできなくなって、まだ少し燻っている怒りを瑠璃に向けた。
「わざわざ全員呼び出して、やるこたそれかよっ! 仕事の話するんじゃなかったのかよ」
『や、だって、今回の仕事、えみちに関係あるんだもん』
 それでも、思わず我を忘れて歓声をあげてしまったのはまずかったかも、と、瑠璃は少しばつが悪そうにそう言った。
「えみちに?」
『うん、実はね、アルタイルのナスルでえみちの変異体らしい生き物が発見されたんだって。で、翡翠のえみちと直接会話させて、ほんとにそれがえみちの別の種類なのかって確認と、えみちに関する新しい情報を持ち帰って欲しいって依頼なの。だから、翡翠とえみちを現地まで運んで、情報を持って帰ってくるってのが仕事になるのかな』
「ちょ、ちょっと待った。アルタイルまでって、どうやって行くんだ?」
 青は淡い期待を抱きつつ、瑠璃に尋ねた。
「会社のリーパー船に琥珀ごと格納して連れてってもらう予定だけど?」
「マジでっ!? マジでリーパー船に乗れんのか!?」
 興奮のあまり身を乗り出した青のテンションの上がりっぷりに、瑠璃は気圧されたように目をしばたたかせた。
 青が大喜びして、一度乗ってみたかったというリーパー船とは、現在唯一の星系外あるいは銀河系外までも自在に移行可能な船だ。  
 船、といっても、実際に恒星間航行ができるのは、船そのものの仕組みというわけではなく、船に宿った異種生命体のお陰だった。
 肉体を持たぬ彼らは、銀河中を自在に旅し、その時々で出会った生命体や文化を学ぶのを存在目的としているらしい。自らを第三種族と呼び、太陽系人からはリーパーと呼ばれる彼らは、正に空間をリープ(跳躍)することができた。
 そして宇宙船のAIに融合し、船自体をもリープさせることができるとわかってからは、太陽系内に溢れんばかりに増えていた人類は、入植可能な他の恒星系にまで、一気に進出していった。  
 こうして、恒星間の行き来が行われるようになってから、数の限られたリーパー船を所有しているか否かが、重要な鍵になった。政府や軍や警察などの公的機関がその殆どを所有しているからこそ、リーパーを所有することのできた稀な企業や民間人は、爆発的な発展を遂げた。青たちの所属している銀河ぴよぴよ運輸が、現社長一代で業界大手となるまでに成長したのも、このリーパー船を所有していることが大きな理由だ。実際、リーパー達による星系外輸送が可能になってからは、リーパー船を所有している会社とそうでない会社とでは、かなりの隔たりができていた。
『う、うん。じゃないと、もし無事に行って帰ってきたとしても、その頃には知ってる人誰もいなくなってるもん。それじゃ意味ないし』
「そっか、そうだよな。けどリーパー船かァ、ラッキー、一度乗ってみたかったんだよな」
『コラコラ、それがメインじゃないからね。ちゃんと言われたお仕事してきてよ?』
「わかってるって! で、いつ?」
『準備が整い次第すぐに、かな。ティエル……あ、これがうちの船のリーパーの名前ね、ティエルには話してあるから』
「どこで乗り込めばいいんだ?」
『どっかのステーションより、宇宙で直に収容してもらった方がいいと思うんだ。あの船は空母クラスだし、ドッキングできるほど大きいとこって限られてるし、時間もかかるしね。だから、準備ができたらこの近くの空いてる宙域に来てもらうよ』
「オッケー、わかった。じゃあなるべくすぐに出発するよ」
『うん、お願い。あと他になにか質問はある?』
「目的地と依頼主の情報はどうなってます?」
 と、瑪瑙が口を挟み、瑠璃は、それなら、と言った。
『あ、うん、さっき送った』
「アンバー?」
『はい、確かに届きました。スクリーンに映しますか?』
「ああ、頼む」
 青が頷くと同時に、スクリーンの格子が入れ替わり、瑠璃の姿が左上に移動したかと思うと、右側に宙図と詳細な情報が映しだされた。
 それを眺めながらも、青の心は既に憧れのリーパー船へと漂っていくのだった。







 
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