ひよこマーク  
 

そのに
 
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 一応食べ物だし、ずっとそのままにしとくのもまずい気がする。だからと言って、もはや食べられるような状態じゃない。
 と、青が真剣に悩んでいるところへ、姉妹達が口を挟んだ。
「そう、そのコ、えみちっていうんだってね。かわいいよねー」
「なんかさっきも色々遊んじゃったよ。面白いね」
「あたしも欲しいよぉ」  
 どうやら、青のいないところでえみちは姉妹達の人気を獲得したようだが、青は真顔で「欲しい」と言った末っ子のパッドに言った。
「それは、やめとけ」
「えー? なんで?」
「見た目、面白いかもしんねェけど、下手に扱うとかなりヤバいんだって」  
 面白いし、実際かわいいと思ってる。  
 だがそれでも、姉妹達が水に濡れて増えたえみちに押し流されたりするのは避けたい。
「そうなの? でも、シグ達普通に飼ってるじゃない。気をつければいいんでしょ?」
(普通、なのか?)  
 と、青が一瞬考え込んだ隙に、セルラは翡翠に尋ねている。
「ねェ、翡翠さん。このコもう売ってないの?」
「んー……その店にはこのえみちしかいなかったけど。でも、えみちが言うには、世界中を仲間が旅してるらしいよー」
「えー! すごーい! いいなぁ、あたしも会ってみたーい」
「やめといた方がいいって、マジで」
「なんでよ。シグってば、心配性すぎじゃない?」
「心配性とかそんなんじゃなくってなぁ」  
 実際大変な目に合った当事者として言ってるんだと、青が続けようとしたのを、ラスターが強引に遮った。
「まぁそれはともかく、さ。シグ、あたしらからもプレゼントがあるんだよ」
「え?」  
 青が思わず振り返ると、ラスターの隣で長女のアーランも頷いていた。
「ああ、そうそう。早く渡そう?」
「みんなでねー、共同出資したの」
「あたし! あたしが渡す!」  
 と、片手を思いっきり挙げて名乗りでたのは、パッド。
「じゃあ、お前が渡してあげるといい。ほら」  
 そう言われて、パッドが父親のソートから受け取ったものを見て、青は戸惑ったように目をしばたたかせた。
「あ、れ? それって……」
「はい! おめでと、シグ!」
「おめでとう」  
 パッドが元気よく差し出し、他のみんなが声を揃える。
「あ、ありがと。でもコレ、さっきの荷物だよなぁ?」  
 それは確かに、自分がここまで運んできた例の荷物だった。
「そう。せっかくだから、絶対間に合うように、お前に運んでもらうことにしたんだよ」
「そうだったのか。……開けてもいいのか?」
「もちろんっ 開けてみて」
 全開の笑顔に促されて、青は運送用の茶色い包装紙と、その下の青いギフト用包装紙を続けて破り開けた。  
 包装紙の下から出てきたのは頑丈な強化プラスチックの黒い箱で、一呼吸分、はやる気持ちを抑えて、青はそっと上蓋を開けた。
「!」  
 箱の中に幾つものパーツを見つけて、青の表情が瞬間的に明るくなる。  
 機械モノを分解したり組み立てたり改造するのが大好きな青は、なにができるのか判らない内から、そういった部品を見るだけでわくわくしてしまう。  
 そして、箱の隅に差し込まれた、オレンジ色のカードを見つけた時、青は更に瞳を輝かせた。
「これって」  
 それには、このバラバラの部品が組み立てられた時の完成図と名前が書かれていた。
「スカイチェイサー CW/792」  
 靴の裏にはめこんで使う、プレート状のエアスケートで、若い世代には人気がある。鳥の翼を模ったものが、外側の両踵辺りに取り付けられているのが、このシリーズの特徴だ。これを乗りこなすのには、ある程度のコツと運動神経が必要だといわれているが、青はこれの四、五代前の型式のものを一つ持っていて、子供の頃から使っていた。
「どう? 気に入った?」  
 気に入ったかどうかなんて、青の表情を見れば一発でわかるが、それでも、青と同じくらい嬉しそうに笑いながら、パッドが尋ねた。  
 青は、手元のカードと箱の中身、自分の顔を覗きこむようにして尋ねる妹の顔、その周りにいる家族の顔を一通り見回して、少し紅潮した頬で頷いた。
「もちろん! すげェよ、これ。最新型だぜ? 欲しかったけど、すげェ高いから諦めてたんだよ。なのに、こんなふうに手に入るなんて、マジ、思ってなかった。すげェよ。すげェ……嬉しい」  
 と、喜びを噛み締めるように、パーツの一つを手に取る。そんな青の姿に、両親も姉妹達も皆、満足そうだ。
「あとねぇ、これ、ぼくから」
「え?」  
 喜び覚めやらぬ青に、翡翠が手のひらに乗るくらいの、小さなカプセルを差し出した。
「お前が、俺に、くれんの?」
「うん。誕生日おめでとぉ」  
 とろけそうな笑顔で言われ、青は照れ臭そうに、ありがと、と呟いた。
 翡翠から貰った小さなカプセルの中には、丸く黄色い体に青い六枚羽の奇妙な動くモノが入っていた。  
 カプセルが開いた途端に、パタパタと飛びだして、青の頭の上をゆっくりと旋回する。その様に、
(おい、まさかまた生き物かよ!?)  
 と焦ったが、翡翠が言うには、生き物ではなく、機械物らしい。  
 それならいいか、と思ったが、これが一体なんの役に立つのかさっぱりわからない。
「面白いでしょ?」  
 としか判断基準のない翡翠のことだから、単に見た目が面白かったからに違いない。  
「ああ、そうそう。私からもあるんだけどね」
 青の頭の上で グルグル回っている翡翠からのプレゼントを眺めながら、唐突に瑪瑙が言った。
「お前から!?」  
 途端に、青の楽しい気分は激減。去年の誕生日プレゼントのことを思い出して、青は眉をひそめた。




 
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