「うるせェよ! 俺だって好きでこんな身長なんじゃねェ。大体なんだよ、呪うってのは」
「あー……まぁ、それは冗談だとしても、いつまでもピコサイズなのはなぁ」
「ピコサイズとか言うなっ」
身長差をものともせずに力強く睨みつける青に、ソートは悪びれもせず、あっさりと言った。
「だってお前、小さいじゃないか」
「んなの、親父以外、この家のヤツ全員同じだろっ」
「みんなは女の人だろう? 小さくても大きくても女の人はかわいいからいいんだよ。まぁ、母さんが一番かわいいけどな」
「そりゃ差別ってヤツじゃねェのか」
青は憮然と吐き捨てた。
ソートは、「ん?」と青の顔を覗き込むように身を乗りだし、それからちょっと笑った。
「ああ、ごめんごめん。シグもかわいいぞ。けど、このままじゃ父さんの人生設計がな」
こうやって、腰を屈め、顔をかなり間近に寄せて「ん?」と聞き返すのは、ソートの昔からの癖だ。青は、実のところ、この癖も少し苦手だった。本人は意識してないのだろうが、なんとなく威圧感を覚える。
「そーゆーこっちゃねェっ」
「なんだ? 相変わらず怒りっぽいな。カルシウム採れって言ってるだろう? だから大きくならないんじゃないのか?」
「うるせェよ。カルシウムだったら、言われなくても毎日採ってる」
「採ってるのか……。いや、だがな、だからってそういう誤魔化しはダメだぞ」
ふ、と真顔になった父親の視線が青の頭と顔を行き来する。
「な、なにがだよ」
言われることはわかっていたが、それでも問い返してしまう自分が情けない。この習性は、元からのものだったのか、それとも瑪瑙のせいで身についてしまったものなのか、自分でもよくわからなくなっていた。
そしてソートは、予想通りの指摘をした。
「お前、その髪型は反則だろう」
「う、うるせェな、いいだろ、別に」
わかっていたのに、やっぱり動揺してしまった。
「よくない。よくないぞ、シグ。そんな髪の毛で身長を割り増ししようなんてセコいこと考えてるから、いつまでたっても成長しないんだ。大体、その髪の色はどうしたんだ?」
と、父親の手が青の髪に伸びる。
青はその手を振り払うようにして、この場から逃げだそうと口早に言った。
「ああ、もう、なんだっていいだろっ! んなことより、お袋がそろそろ来いって言ってだぞ」
「ああ、もうはじまるのか」
「はじまるってなにが」
この後、この家でなにがはじまると言うのだろう。訝しげに尋ねる青に、ソートはやけに嬉しそうに笑って、人差し指をリズミカルに動かした。
「ひ・み・つ♪」
でっかい、もういい大人の男のそんな仕草にぞっとして、青は露骨に顔をしかめた。
「なにが秘密だ! 気持ち悪ぃんだよっ」
「ひどいなぁ。母さんはかわいいって言ってくれるのに」
「バカ夫婦が……」
思わず吐き捨てた青の顔を覗きこむようにして、
「シグ? 焼き餅か?」
と問いかける父親に、青はめまいを覚えた。
「んなわけねェだろ!」
(ああ……疲れる。だから帰ってきたくなかったんだよ)
大きなため息をついて、青は父親と共に応接間へ引き返した。
そして応接間に戻ってきた青は、目の前の光景に、思わず、声をなくして立ち竦んだ。
(な、なんだ、これ)
さっきまでは、ただ女達の集団がそこらで好きなようにお喋りしているだけだった空間が、まるでどこかのパーティ会場のように様変わりしていた。
家族全員が座れる細長く大きなテーブルには、糊のきいた水色のクロスがかけられ、中央には、黄色を主体にした見事なフラワーアレンジメントが飾られて、豪華な料理の数々が、所狭しと並んでいる。
湯気のあがる香ばしいローストチキン。生クリームとクルトンをトッピングした、鮮やかな緑色のポタージュスープ。アボガド、タマネギのスライスと和えた、スモークサーモンのマリネ。等々。
その殆どが、おそらく合成食品なのだろうが、見た目も味も変わりはないはずだ。
「えへへ、すごいでしょ」
ニコニコ笑いながら声をかけてきたのは、一番下の妹、パッド。
その後ろを、オレンジ色の家庭用サーボが、揚げたてのパンツェロッティを山盛りにした黄色い皿を抱えて通り過ぎていった。
「どう、したんだ?」
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