ひよこマーク  
 

そのに
 
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「ばっ、なに言ってんだ。仕事中なんだぞ!?」
「仕事なら、ここで最後だろう?」
「ったって、この後だって仕事受けなきゃダメだろ! 勤務時間はまだ残ってんだから」
「もう、いいから、中入って! ほらほら、早く!」  
 いつまでも入ろうとしない青を急かし、セルラはその左腕を取って、無理矢理中に引っ張って行く。
「わ、やめろよっ」
「いいから。とにかく中に入って。話は中でゆっくりできるでしょ」
「だから、ゆっくりなんてしてらんね……」  
 青の言葉は、次のドアを抜けた途端に沸き起こった騒ぎにかき消された。  
 その姿を見た途端、部屋の中にいた全員がそれぞれに声をあげ、青は一瞬、めまいを起こしそうになった。
「お帰り! 遅かったね」
「あはは、なに、その髪~っ」
「シグ、元気にしてたの?」
「ねぇねぇ、後でお仕事のお話聞かせてねっ」
 中にいたのは、総勢四名。全員女性で、全員が全員、それぞれ微妙に色合いは違うものの、金の髪に青い目をしている。
(げ、なんで勢ぞろいしてやがんだよ)  
 それは皆、青の姉妹で、一番上と三番目の姉は既に家をでて、別の土地に暮らしていたはずだった。なのに、まるで青を待っていたかのように、全員揃って口々に声をかけてくる。その姦しさに、瑪瑙と翡翠さえ、さすがにちょっと驚いたようだ。  
 だが、すぐに立ち直って、
「わぁ、せーがいっぱいいるー」  
 と、翡翠が呟いたように、青は姉や妹たちと本当によく似ていた。
 顔立ちもそうだが、身長も殆ど変わらない。後で瑪瑙が、「小人ハウスかひよこ小屋に迷いこんだのかと思った」と青に言ったくらい、殆どが一五〇センチ前後しかない。  
 そして、奥の部屋からもう一人。やはり身長も顔立ちも髪と目の色も同じだが、そこにいる少女たちよりは年配の女性が現れた。おそらく、このよく似た子供達の母親だろう。  
 彼女は、好き勝手に騒ぎたてる娘達に向かい、
「ちょっとは静かにしな!」  
 と、その体つきからは想像もできないほどの大声をあげ、瞬時に娘達を黙らせた。  
 それから、久しぶりの状況に固まっている青と、やはりその後ろに立ったままの瑪瑙と翡翠に歩み寄ると、まずは瑪瑙、そして翡翠の順に目を配った。
「騒がしくてごめんな。びっくりしただろ。あたしはこの子らの母親で、ラスターってんだ。いつもうちの息子が世話になって、すまないね」  
 と、乱暴ではあるが、親しみのこもった挨拶をすると、
「いいえ、とんでもない。賑やかでいいですね」
 瑪瑙はいかにもなセリフを返し、翡翠はいつもの調子でまったりした挨拶をした。
「はじめましてー。翡翠です」
 そして、その後母親が瑪瑙にかけた言葉に、青は耳を疑った。
「ああ、そうだ。瑪瑙さん、今回はありがとな。色々と助かったよ」
「いいえ。このくらい、お安い御用ですよ」
「お、おい? なんで? 知り合いだったのか?」  
 そんな話、今まで一度たりとも聞いたことはない。  
 と、ラスターは青に真正面から向き直り、その額に思いっきりデコピンを食らわした。  
 ビシッ!
「てっ! な、なにすんだ!」  
 両手に抱えていた荷物を右手に持ち替えて、煙をあげそうな勢いで一撃を食らったおでこを擦る。
「このバカ。お前が全然帰って来やしないからだろ! 便りもロクロクよこさないで、年に一度くらいは帰って来いって、言ってあっただろうがっ」
「なんだよ、それとこれとなんの関係があんだよっ」
「お前が自分から帰って来ようとしないから、うちへの荷物をお前が届けるようにしてもらったんだよっ」
「なっ!」
(じゃあ、アンゲロスで直に仕事を受けるって言いだしたのも、頑なにこの仕事を受けようとしたのも、全部最初っから作戦だったのかよっ!)  
 本当は、真珠をアンゲロスに連れて行くことも、瑪瑙が真珠に頼んで協力してもらった結果なのだが、さすがにそこまでは思い当たらなかったようだ。
 青は、余計なことしやがって、と、背後の瑪瑙を振り返って怒鳴りつけた。
「瑪瑙、てめェ、なんでそんな余計なこと……っ」
「失礼な口、利くんじゃないよっ! このバカ息子っ」  
 途端にラスターの拳が青の後頭部にゴツ、と痛そうな音をたてて炸裂する。
「いってェ!」  
 思わず涙目になるほど痛い。久しぶりに会った息子にも、恐ろしく容赦がないようだ。
「瑪瑙さんはあたしらの無理を聞いてくれたんだ。ほんとに、お前ときたら、バカだねっ」
「バカバカ言うんじゃねェよっ」
「それが親に対する口の利き方かいっ!」  
 と、その言葉が終わるか終わらないかの内に、ラスターの必殺の蹴りが青のこめかみに繰りだされる。  
 空気を切り裂く鋭い蹴りを、青は寸でのところで背中を反らして避けた。
「うわっ!」  
 目の前を薙いでいったつま先に、思わず冷や汗が滲む。心臓がドキドキしていた。
「あっぶねェな、殺す気か」




 
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