「そっ、そんなの別にどうだっていいだろっ」
「どうでもいいわけないじゃないか。大切な」
と、わざとらしく言葉をためて、
「仲間がなにを嫌がるのか、ちゃんと知っておきたいしね」
言葉だけはやさしくても、今更騙されやしない。
「ふざけんな。大切だなんて思っちゃいねェくせに」
そう吐き捨てた青に、瑪瑙はわざとらしく傷ついたような表情をうかべた。
「ひどいな。思ってるよ。大切なオモ、いや、仲間だって」
「ってめ、今オモチャとか言いかけただろっ」
それが本音か! と睨みつける。
瑪瑙は慌てることなく、無表情に否定した。
「まさか」
「いーや、絶対そうだ。お前、俺のことオモチャだと思ってんだろ!」
そんな気は、ちょっとしていたが、改めて言われるとショックだし、腹が立つ。
「そんなわけないだろ? 面白い仲間だ、と言いかけたんだよ」
「嘘つけっ」
力いっぱい決めつける青とは対照的に、瑪瑙はなんだか投げやりに言った。
「じゃあ、大切なお餅でいいよ」
一瞬の沈黙。
「……待て。お餅ってなんだよ! しかも、じゃあって。いいよって。お餅って意味ねェだろ! 俺が大切なお餅って、意味わかんねェよっ」
「タマが、あんまりわがままばかり言うからだろ?」
困った奴だ、とため息までつかれては、さすがに青も黙ってはいられない。いや、最初から黙ってはいなかったが。
「俺はタマじゃねェ! っつーか、わがままなのはお前の方だろうがっ! 俺がいっつもいっつもお前のわがままで、どんだけ苦労してると……」
思わず過去のあんなことやこんなことを思いだして、涙がでそうになる。
と、そんな青には見向きもせず、瑪瑙はずっと大人しく待っていた巻き毛の青年に向き直って言った。
「まぁ、そういうことだから。この仕事、受けるよ」
「無視すんなーっ! しかも、勝手に決めてんじゃねェ。なんの権利があって、そんなことすんだよ」
「権利? 私が配送チームのリーダーだよ? 仕事の受託権限は私にある」
瑪瑙は必死に訴える青に向き直ると、淡々とした口調で告げた。
「こっ、こんな時だけリーダー言いやがって。普段なんもしねェくせにっ」
「リーダーっていうのはそういうものだよ。いざという時だけ先頭に立つんだ。普段は表に出ずにね」
「じゃあ、いざって時に責任も取れよな」
「責任を取れ? それ、プロポーズか?」
「んなわきゃねェだろっ!」
そんな恐ろしいこと、と即答した青は、
「ああそう、それは残念」
ポツリと洩らした瑪瑙の一言に、不覚にも一瞬動揺してしまった。
「え、残念?」
「プロポーズだったら、うまいこと言って散々貢がせてから、ポイ捨てしてやれるのにな」
笑顔であっさりと言い放つ。わかっていたはずなのに、青は眉をひそめずにはいられなかった。
「鬼か、てめェは」
「ありがとう」
「誉めてねェ」
またしても、他人には口を挟めないような二人の掛け合いがはじまって、これまではずっと辛抱強く待っていた青年も、さすがにおずおずと声をかけた。
「あ、あのぅ、それでこのお仕事は、結局、受けていただくってことでよろしいんでしょうか?」
「よろしいよ」
「よろしくねェっ」
相反する答えに、青年は戸惑いを隠せなかった。
「え、あの、どちらなんでしょう」
瑪瑙は青を見やり、静かに言った。
「タマ、話がややこしくなるから少し黙ってなよ」
「なんだと! 俺はタマじゃねェつってんだろっ」
「どうしても嫌だと言うなら、その理由を明確にしろ。さしたる理由もないのなら、ここはリーダーの、私が決めることだから、余計な口を挟まないでもらえるか?」
「なっ、うっ、ぐ、こっ」
怒りやら焦りやらなにやらで、言葉にならない。
そして結局、青は、負けた。
やっぱり。
というのは、言っちゃいけないお約束。
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