「こちらこそよろしくお願いします。……ところで、セイさんは、本当は青玉とおっしゃるのではないですか?」
「……タマだ」
口の中で呟いた瑪瑙の言葉を、青と真珠だけはしっかりと聞き取っていた。だが、水晶にはわからなかったようだ。
「今、なんとおっしゃいましたか?」
「なんでもねェ!いや、ないです。俺は、その、青玉ってことになってるけど、青って呼んでもらうことにしてるから」
「紅(コウ)さんと同じですね」
さらりと言った水晶のセリフに、青は目を見張った。
「あいつのこと、知ってんのか?」
「はい。一時的ですが、同じ配送チームでした」
この、どこか機械のような冷たい印象の少女と、自分の知っている紅玉(コウギョク)こと、紅は、まるで正反対に思える。これでよく同じチームでやっていけたよな、と思い、そういえば自分のチームも似たようなものかも、と思い直した。配送チームの編成は、まるきり性格の違う者同士を組ませる傾向でもあるのだろうか。
そういえば、真珠はもちろんのこと、瑪瑙もまるで驚いた様子がない。それならこれは、そんなに珍しいことでもないのだろうか。
「あいつが、誰かと組んでやってたなんて知らなかった」
数ある配送チームの中で、紅玉、というのは常に単独で仕事をすることで知られていた。たった一人で、しかも危険な仕事を好んで引き受けるような人物だ。チームワークなんてものとは、およそ無縁だと思っていたのに。
「ほんのわずかな期間です。なにしろ独立心の旺盛な人でしたから」
水晶がかすかに面白がるような表情を見せ、青は、思ったより冷たくも機械的でもないのかもしれない、と思った。他人と協調するのが苦手な紅のことを語るのに、懐かしむような様子さえ見せるのなら、実は冷たさとは正反対なのかもしれない。
と、自分が喋りすぎたと感じたのか、水晶は急に表情をひきしめ、微笑みを絶やすことなく青との会話を聞いていた真珠に向き直り、頭を下げた。
「失礼しました。視察においでになったのでしたね。まず、どちらからご覧になりますか?」
「そうですね。受託処理記録はすぐに見れますか?」
「勿論です。ご案内いたします」
壁のパネルを外して待っていた技術者に、一先ずパネルを元に戻しておくように指示して、水晶は真珠を片手で促した。
水晶に導かれて歩きだしかけた真珠は、ふと足を止め、青と瑪瑙を笑顔で振り返った。
「あ、瑪瑙、タマさん、今回は本当にありがとうございました。お陰で楽しい時間を過ごせました」
「タマ言うな、つってんのに」
憮然と呟く青に対し、瑪瑙は対照的に愛想がいい。
「私たちの方こそ、楽しかったよ」
(私たちって、俺は全然楽しくなかったっつーの!)
瑪瑙の意見に全面的に反対な青は、更に不機嫌そうに瑪瑙を睨んだが、瑪瑙はそれを平然と横顔で受け止めた。むしろ、青がそう思うだろうことはわかりきっているのだろう。
「では、また」
と、水晶を先に歩き出す真珠を、瑪瑙は少し笑って見送り、青は嫌々ながらもペコリと頭を下げた。
二人が立ち去り、その場に二人きりになると、瑪瑙は青の方を見もせずに言った。
「なかなか、かわいい娘だったな」
「ああ」
思わず素直に頷いた青を見下ろし、瑪瑙は口の端に笑みをうかべた。
「好みのタイプだったか?」
からかうような口調に、青はジロリと瑪瑙を睨めあげた。
「なんかやな言い方だな。別に普通の感想だろ、好みとかそんなんじゃねェよ」
「ああいうタイプは嫌いなのか?」
「っていうか、俺よりでかいし」
青より大きいといっても、一六〇センチちょっとぐらいで、長身というほどではなかったのだが。とはいえ、青の突きたてた髪の毛分を差し引けば、確かに身長差はあるのかもしれない。
青の言葉に、瑪瑙は大袈裟に驚きを表した。
「身長で全て判断するのか? 身長に人格が現れるっていうなら、タマはよっぽど人間が小さいんだな」
「ってめ! タマとか小さいとか言うんじゃねェっ! 俺はまだ成長期なんだ!」
「いつまでその言い訳が通用するかな」
「言い訳とか言うなっ! 身長と人格が一緒だなんて思ってねェよ。そんなん、お前見てりゃわかる」
吐き捨てるように言った青に、瑪瑙は怒るどころか楽しそうに笑いだした。
「なるほど。それはそうだね」
「お前、性格悪いは誉め言葉じゃねェぞ?」
なんか勘違いしてないか? と首を傾げる。
瑪瑙は、それすらも笑って受け流し、
「さてと、そろそろ行こうか」
青を促し、真珠たちが去ったのとは反対に歩きだした。
「どこに?」
「仕事を受けに来たんだろ?」
振り向きもせずに答えた瑪瑙に、青は、あ、そっか、と呟き、慌てて瑪瑙を追った。
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