ひよこマーク  
 

そのに
 
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「えみちってなんです?」
「翡翠の新しいコレクションですよ」
「え、翡翠のコレクションってヤバくない? あたし、貰っても困るかも」
 不安げに表情を曇らせた瑠璃に、瑪瑙は自信たっぷりに、ニヤリと笑った。
「それは、実物を見てから言ってもらいたいですね」
「今、見れるんですか?」
「翡翠が持ち歩いてますよ」
「見せてもらえますか?」
「いいですよ。翡翠、えみちは?」
「え? あ、ここ」
 と、言われるままにポケットを手探りする翡翠に、またもや青が声を張り上げた。
「だからっ! お前は、もうちょっと考えて行動しろよっ」
「なにが?」
 と、翡翠はまるでわかっていない様子で首を傾げた。あどけない子供のような仕草が、また青をイラつかせる。
 そこに、瑪瑙が薄く笑いながら仲裁に入った。
「そう熱くなるな、タマ。いいじゃないか、素直で。そんなに怒ってばっかりいると、大きくなれないぞ」
 前言撤回。仲裁ではなく、更に煽るのが目的のようだ。
「いいことあるか! 大きくなれねェとか、タマって言うんじゃねェっ」
 とりあえず、全部に突っ込みを入れたが、瑪瑙の発言のどれに一番怒りをかきたてられたのか、青にもわからなかった。どれもこれもなく、一々頭にくることばかり言うのが瑪瑙だと、わかっていても、やっぱり腹は立つ。
 そこに、ニコニコ顔の真珠が割り込んだ。
「まぁまぁ。こんなところで喧嘩するなら、瑠璃さんのお相手をしていただけませんか?」
「折角賞品もあることだしな」
「だから、飼い主は翡翠だろ。なんでお前が勝手にそんなこと決めんだよっ」
 青の再三の訴えを聞き流し、瑪瑙は翡翠のポケットから勝手にピンクの物体を取りだした。ムニュッと掴まれて、若干変形したそれを、真珠と瑠璃に見せつける。
「ま、それはそうと、これがえみちですよ」
「それはそうとじゃねェっ」
 瑪瑙の褐色の指に掴まれた物体を凝視して、真珠と瑠璃はそれぞれに驚きの声をあげた。
「これは、すごいですね」
「なにこれーっ」
 えみちは、マジマジと見つめられ、少し恥ずかしそうに、
「にゅう」
 と、鳴いた。
「いやぁっ、鳴いたぁ」
「おい、だから」
「面白いでしょう?」
「確かに、なかなか興味深いですねぇ。どの辺りに生息してるんですか?」
「アンバーのデータベースで調べても詳しいことはわかりませんでした。この天の川銀河の外宇宙からやってきたんじゃないかと言われているそうですよ」
「本当ですか?」
「さあ? なにしろ、ほとんどが謎に包まれているようです」
「それは益々、興味をそそられますねぇ」
「おい、聞いてんのか」
 おそらく、聞いていても聞こえないフリをしているのだろう。瑪瑙も真珠も、完全に青を無視している。瑠璃は、聞こえていないのかもしれない。瑪瑙の掴んだピンクの物体を、時折「うわぁ」とか「すごい」とか呟きながら見つめたままだ。翡翠もまた、いつものようになにも聞いちゃいないのだろう。
「賞品に相応しいでしょう?」
「私に異存はありませんよ。自分が参加したいくらいです」
「課長は?」
「え?」
 問われて、瑠璃はようやくえみちから視線をひきはがし、瑪瑙を見上げた。なんだか、目がキラキラしている。
「えっと……欲しい。でも、いいの?」
「勿論です」
「だから、それをお前が決めんなって言ってんだろ」
 今度の突っ込みも見事に流し、瑪瑙は揶揄するように瑠璃を見やった。
「タマに勝てれば、ですけどね」
「タマじゃねェ」
 瑪瑙の言葉に条件反射で応える青をチラリと一瞥し、瑠璃は、プライドを傷つけられた怒りを込めて、瑪瑙を睨んだ。
「なに、あたしじゃ勝てないって言うの?」
 瑪瑙は口の端だけで笑い、「いいえ」と、ひどくゆっくり首を横に振った。
「そうですね。むしろ最初から負ける気のタマなんかに、負けるはずがないですね」
「おい、負ける気ってなんだよ。タマ言うなって、言ってんだろ」
 青は、聞き捨てならないと、眉をひそめた。瑪瑙はかるく肩を竦め、小馬鹿にするように薄く笑った。
「ああ、勝つ自信がない、か」
「ふざけんな、誰が。こないだ勝ったのは、俺だぞ」
「だから、まぐれだったんだろ? 次に戦ったら負けるってわかってるから、逃げ腰なんだろ?」
「まぐれなんかじゃねェよっ」
「だったら、そんなにムキになることないじゃないか。自信、あるんだろ? 気軽に勝負すればいいじゃないか」
「おお! してやるよ、そんなの」
 拳を握り締めて宣言した青に、瑪瑙は猫のように目を細めて笑った。
「じゃ、決まりだね。行こうか。翡翠、預かってろ」
 と、翡翠にえみちを渡すと、瑪瑙はさっさとトレーニングルームに向かって歩きだした。その後に、真珠、瑠璃、翡翠が続く。
「そうしましょう。準備は整ってますから」
「絶対、あたしが勝つからねっ」
「せー、負けないでね」
「にゅう?」
 翡翠の手の中で、「来ないの?」と尋ねるように、えみちが鳴く。
 そして青は、
「……あれ?」
 ようやく、瑪瑙に乗せられたことに気が付いたのだった。





 
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