卵人狩  
2章「狩人の宵闇」
 
 
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2-11


 朧な光を失い、ただのかけらとなった卵を顔の上にばらまいて、シェラが笑う。
 悦びを満面に湛えて、シェラは笑った。
『ねぇリィタ? あなたは死ぬのよ、リィタ。あなたの卵と一緒にね。あなたの血は止まらないのよ』
『……死、ぬ……の?』
 虚ろな声がぼんやりと呟いた。
『死ぬわ。だからねぇ、あなたの、死の間際の秘密をあたしに聞かせて。他に誰もいないわ。世界にはあなたとあたしだけよ。だから、あなたの秘密はあたしのものになって、いつまでもあたしの中に隠しておいてあげる。隠し続けて苦しかったことはないの?』
 いつものように、シェラは最期への言葉を口にした。その手にかけた者達の死の間際、生きている間は決して口にしなかった彼等の秘密を聞きだすことが、シェラの愉しみの一つだった。
 まばたき一つしなかったリィタの目が、ほんの一瞬きらめき、コトン、と人形のようにまばたきした。
『……卵……喋る卵……』
『喋る、卵? それがあなたの秘密?』
『みんな、死ぬよ。進化は、止められない、から……』

 その静かな秘め事にじっと見入っていた狩人の長は、断末魔に紡がれた一言に、ハッと息を飲んだ。
「まさか、進化の卵、か……!?」
 アシェは以前、雲上の都市にあって、アルシェレイムと呼ばれていた。
 天上界の誰もが恐れていたこと。
 それは、いつか孵るであろう『進化の卵』の存在だった。
 それによって滅ぼされるであろう、自分達の未来。
 だから彼等は、生まれ落ちた卵を集め、それらをすべて凍結保存するか、いっそのこと燃やし尽くしてしまうかしていた。一個の卵も孵らなければ、進化という名の破滅の天使は、産まれない。
 地上に降りて、あまりにも無造作に転がされている卵に、アシェはいつも不安を感じていた。いつかこんな日が来るんじゃないかと。
(そうだ、こんな日が来ることを、私は知っていた)
 光を失い、音もなく死んでいく女天使と、その髪を撫でて微笑む、闇を狩る女天使。その残像を残して、アシェはモニタディスプレイの電源を切った。
 途端に落ちる暗闇の中、アシェは静かに目を閉じた。
 進化は止められない……?
 滅亡も止められない……?

 いいや。
 方法はある。
 一つだけ。

  産まれ落ちた『破滅の天使』を、もう一度夜の闇に帰してやればいい。
(そうだ。私は、この手で……)
 アシェはゆっくりと目を開き、暗闇の中で決意を込めて微笑った。
「私はこの手で、未来を狩るのだ」
 そして、狩人達の夜は更けていく。


 

 

   
         
 
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