卵人狩  
2章「狩人の宵闇」
 
 
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2-6


 近づくにつれ、狩人達の瞳はまるで、獲物を追いつめるかのように輝き、視線の矢でリィタを貫く。逃げだしたいのに、身体は痺れたようにうまく動かない。
「とにかく行こう」
 リィタの腕をとり、ラァザが急かす。
 三人の狩人はもう、すぐそこまで近づいてきている。
「うん、でも……」
 あの、恐ろしく優艶で、官能的な肢体の女天使。
 しなやかに歩み寄る、赤い唇の美しい狩人。
 彼女の瞳は。
 爛々と輝く瞳の呪縛に、リィタは戦慄と同時に、刺すような快感を覚えた。
 頭の中が、白く痺れていく。
「どうして逃げるの?」
 真紅の唇が蠢き、二人の天使を絡めとり、二人は目に見えぬ糸に縛られたかのように動きを止めた。


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 暗黒の空を突き刺す狩人達の居城を背に、シェラは追いついてきたルーダに、
「それで? どこにいるの」
 奇跡のようにくびれた腰に手をあてて、尊大に首を傾げた。
「まぁ待てって、シェラ。取り敢えずメインストリートにでて、そこらを歩いてるのから見つけるからさ」
 ルーダは苦笑まじりにそう言って、都市の内奥へと伸びる暗い路地を指差した。
 街灯もない、ビルの狭間の深淵は、無意味にたれ流されているビルの光によって、ぼんやりと霞んで見える。
「ほら、こっち。近道なんだぜ、シェラ。メインストリートにでたらすぐに見つけてやるよ」
「場所なんてどこでもいいわ。例えば、向こうから来る二人連れなんかはどうなの?」
 忘れられた路地の彼方から、幻のように二つの影が近づいてきている。狩人の鋭い視線でそれをいち早く見つけたシェラは、衝動的な予感をもってルーダに尋ねた。
「うん?」
 薄闇に目をこらし、ルーダはシェラの言う二人組をじっと見つめたかと思うと、
「お、ありゃ卵持ちだぜ、間違いない」
 パキンと指を鳴らした。
「なぁに? 卵持ちを探してるの?」
「ああ。シェラのリクエストだからな」
「へえぇ、悪趣味」
 棘を含んだフィムの言葉を無視して、シェラは興奮のためか少し上気して見える頬で、ルーダの答えを促す。
「それで、どっちなの」
「髪の長い方さ、シェラ」
 不必要に顔を近づけて耳元に囁くルーダのことさえも眼中にないらしく、シェラは、
「そう」
 と薄く微笑んだ。
 相手もこちらに気づいたのだろう。今にも逃げだしそうな二人の天使に向かって、シェラは足早に歩み寄っていった。

  獲物を目の前にした悦びに、シェラは鼓動が高まるのを感じた。
「どうして逃げるの?」
(だけど、逃げるのなら逃げなさい。死に物狂いで逃げなさい。あたしはそれを追いかけて、追いつめて、そしてきっと捕まえるから。
 ドキドキするわ。
 恐怖にもつれる足音を聞くのは好きよ。あたしを畏れる瞳はたまらないわ。怯えて掠れた悲鳴は、なによりの幸せよ)
 目を逸らすこともできずに、彫像のように身動きしない女の天使に、シェラは興奮を押し殺して尋ねた。
  もうすぐ、もうすぐこの女の腹を引き裂いて、その中に蠢く白い卵を握り潰してやれる。そう思うと、自然と心がふるえた。
 

 

   
         
 
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