その、残酷なまでの美しさ。
目を細めて、獲物を見る愉しげな目付きに、サキは背中がゾクリとするのを覚えた。
「見つけた」
そう告げる声音も、澄んだ音楽。
その美しさに恍惚となりながらも、頭の奥では警報が鳴り響いている。気づかない内に、全身の産毛が逆立っていた。
「ねぇ、いいよね?」
と、相棒に首を傾げる。氷の彫像のように美しく、無表情な天使が、痺れるような低い声で応えた。
「悪くない。だが、片方は使い物にならないぞ。獲物はイキがいい方が面白いんだろう? 最初から手負いの獣を狩ってもつまらないと、後で文句を言われるからな」
それが、自分達のことを評しているのだと、頭ではわかっていても、心と身体が反応してくれない。サキはノーナを支えたまま、ただ凍りついていた。ノーナの心臓の音が、ドドドドドド……と、16ビートを刻み、自分の心臓の音もそれに呼応するのを、ぼんやりと意識した。
彼等の背後には、まだ空っぽの檻を積んだ、澱んだ沼の底のような色のトラックがあった。
その中に入るのは……?
「邪魔だね。そいつ、そこらに捨てて、お前はぼくらと来な」
「……」
「聞こえないの? なんなら、簡単に捨ててけるように、ぼくが殺してあげようか?」
と、楽しげに小首を傾げる。
殺して。
その言葉に、ノーナの身体がビクッとふるえ、サキは我に返った。
(これが、運命ってものなの……?)
苦悩を眉間に刻み、チラ、とノーナを見上げる。ノーナは、自分の置かれた状況が理解できずに、惚けたようにサキを見返した。
サキは、ノーナの腕をそっと外し、
「……サ、サキ……?」
見捨てられて途方に暮れる子供のようなノーナに、ちょっと微笑んだ。
「さよなら、叔母さん。今までありがとう。最後まで一緒にいてあげられなくて、ごめんなさい」
重い身体は、一人で立っていることもできない。ベタッと地面に座りこんだノーナに背を向け、サキはキッと顔をあげた。
たとえ、このまま、天使達の慰み物として狩りたてられ、殺されるのが運命だとしても、怯えて泣き喚くのはやめよう。せめて、堂々と胸を張っていよう。
「……生意気」
不快げに、背の低い、少年体の天使が呟いた。
その時、初めてノーナが、置いていかれる自分に気がつき、ヒステリックな喚き声をあげた。
「サキ!? あたしを一人にするのかい? お前がいなくなったら、あたしゃこの先、どうやって生きてけばいいんだよ! それに、お前一人をみすみす見殺しにしたら、死んだ姉さんになんて言い訳したらいいのさ!」
「ノーナ叔母さん……」
「駄目だよ、サキ! お前が行けば、あたしは助かるからって、そんなバカな考えは捨てちまいな!」
だからと言って、どうすることができるというのだろう。天使に見つかってしまったら、もうどうすることもできないってことぐらい、サキもノーナも痛いほどわかっているはずなのに。
サキは困ったように、ノーナをちょっと振り返る。
そして、ノーナをなんとか宥めようと、サキが口を開きかけた、
瞬間、
ボッ
ノーナの首が、柘榴のようにはぜ割れた。
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