「するよ。あなたは参加するの?」
「そうだな。前回はちょっと都合が悪くて参加できなかったからな。今回は参加するつもりだ。今のところはな」
「ふうん」
「それで? 頼みっていうのは?」
「うん」
と、フィムは少し目を伏せてロウダの関心を自分の目元に惹きつけると、つと目をあげた。
濡れたような瞳で上目遣いに見つめると、ゴクリとロウダの喉が鳴るのが聞こえた。思惑通りの反応に、フィムは内心、ほくそ笑んだ。
「ぼくも、連れていってくれない?」
「……連れて……って、獲物の捕獲にってことか?」
「うん。ダメかな?」
「いや、ダメってこともないが……狩人は自分たちの獲物を先に見ないんじゃないのか?」
「見ない方が面白いってだけだよ。別に、そうしちゃいけないって決まりはないよ」
ロウダは少し考えこみ、フィムを頭から爪先まで眺めまわしてから頷いた。
「まぁ、俺は構わないが。車は二人乗りだからな。あいつが」
と、空っぽの檻を眺めて待つ、もう一人の捕獲者の天使を目で示し、
「承知すればいいが。それに、その黒い服は上からなにか着て隠してもらうことになるが、構わないか?」
と、フィムを窺う。
フィムは、自分の細い身体に目を落とし、それからロウダの相棒に目を遣った。
「あいつを説得すればいいんだね」
呟き、ロウダの返事も待たずに歩きだす。
近づいてくる気配に振り返り、ロウダより少し背が低く、はっきりした目鼻立ちの天使は興味深げに眉をあげた。チラッと、フィムと会話していた場所にとどまったままのロウダに目を遣り、改めてフィムを見る。
壊れそうに華奢な天使だが、その身にまとった黒の色は、見た目に騙されて油断してはいけないと警告している。卵狩人と呼ばれる天使は卵人を狩るが、狩るのはいつも卵人だけとは限らない。
少し警戒して、それでも興味を抑えきれない様子の相手から、フィムは一メートルほど手前に立ち止まった。
「はじめまして。ぼくはフィム・緑守、狩人って呼ばれてる。あなたは?」
「え、あ、俺は、ライナ・橙名(トウナ)」
「卵人の捕獲者だね?」
「ああ、そうだ、けど……」
「選択肢は二つあるんだ。どっちがいい?」
「選択肢?」
「あなたの代わりぼくが捕獲に行くことを許すか、ぼくに狩られて死んでみるか。どっちがいいかな、ライナ?」
そう言って、にっこりと笑ってみせるフィムに、ライナはすぐさま頷いた。まるで最初から、答えは決まっていたみたいに。
「獲物を自分で見つけにいきたいんなら、もちろん。喜んで代わるよ」
狩人に狩られて、慰みものにされて、それで殺されるくらいなら、ちょっとした楽しみを諦めることぐらい、どうということはない。
「そう、よかった」
フィムは満足そうに微笑み、ロウダを振り返って手招いた。
「代わってくれるって。行こう」
そしてフィムは、トラックに積んであった真紅の布をローヴのように身にまとい、さっさと助手席に収まった。
ロウダもすぐに運転手側に座ると、ライナに軽く手をあげておざなりな挨拶をした後、獲物となるべき卵人達を探しに、下層民区域へとアクセルを踏みこんだ。
薄汚れた路地に残されたライナは、ちょっと肩を竦めて歩きだした。
卵人達を捕まえに行く楽しみを無くしてしまったのは残念だが、狩人から無事に別れられたのは幸運だった。
狩人と出かけていったロウダは、そんな幸運に恵まれるだろうか。もしかしたら、ちょっと機嫌を損ねたりして、顔を見るのはこれで最後かもしれない。
「ま、別にどうでもいいけどな」
だからといって、痛める胸など持ってない。
ライナは、どこか適当な場所に、暇になってしまった時間を潰しに行くことにした。
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